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被災地へ支援に赴いた刑務官から特別寄稿がありました。

被災地へ支援に赴いた刑務官から特別寄稿がありました。10月24日に寄稿のあった当事業団参与とともに台風14号によって被災した地域へ支援に赴いた宮崎刑務所の刑務官から、特別寄稿がありました。感謝する被災者に対して『私たちのほうこそ「ありがとう。」』と伝えたいとのこと、更生支援事業団はこういった刑務官に心からエールを送りたいと思います。


 

台風14号による被災者支援(和牛30頭救出作戦)に参加して

宮崎刑務所  岩切謙太郎

「ありがとうございます。このご恩は一生忘れません。」

私が椎葉村居住者から言われた言葉である。このような心のこもった温かい感謝の言葉を人生で何度掛けられるだろうか。

この言葉の発端となったのは、遡ること本年9月22日、私の勤務する宮崎刑務所において、後輩職員から「先輩、椎葉村が大変なことになっています。」と声を掛けられたことから始まる。詳細を尋ねると、後輩がSNSツール「Fasebook」を閲覧していたところ、同月18日に九州上陸した台風14号により、宮崎県椎葉村等が多大な被害を受けたため、私たちの元上司が支援を必要とする旨の投稿をしているとのことであった。そのため私は後輩とともに災害支援ボランティアしようと決意し、投稿していた元上司に連絡を取り、その旨を伝え、快諾してもらった。

ボランティア前日の同月24日、元上司の呼びかけにより、私たちと同様にFasebookで椎葉村の危機を聞きつけた熊本刑務所職員、鹿児島刑務所職員及び抜け道を探してくれ当日はガイドを務める椎葉村の方と共にSNSツール「LINEビデオ」で打ち合わせを行った。その上で当日の活動内容として、椎葉村山間部居住者が飼育している牛30頭が孤立し、土砂崩れ、倒木、崩落によって、飼料等が通常の運搬方法では現地(以下「目的地」という。)に届けられない状況にあり、停電、断水もあいまって、このままでは飼育牛が死亡する危険性が高く、がけ崩れや落石した大岩等を取り除きながら飼料等を目的地に運搬するという活動支援を行うことになった。

活動当日の翌25日早朝、私と後輩は宮崎市を出発し、台風14号の影響で道路が寸断されている箇所を回避しながら約4時間をかけて椎葉村に到着した。まず、軽トラックや四輪駆動車に牛の餌となる牧草ロールの積み込み作業を行い、危険時におけるクラクションやライトによる合図を決め、全員が周知徹底したところで目的地に向けて出発した。しかしそのルートはもはや道路ではなく、崩れた岩や大量の湧水に阻まれ、傾斜のきつい山間を何度も停車しながら、時には降車し、車両を後部から人力で押しながら進み、約2時間かけて目的地に到着した。その後、餌の積み下ろし作業を行うと、牛の飼育者は牛の生命が繋がったことによる安堵の表情を浮かべ、私たちに対し、冒頭に記した感謝の言葉を述べられた。作業終了し、同様のルートで宮崎市への帰路に就いたが、到着したのは日付が変わる直前であったものの、疲労感より充実感で満たされた私と後輩はとても清々しい気持ちになることができた。

今回の災害支援ボランティアは、行政や対策本部が寝る間を惜しんで業務を行っていることを聞き及び、スピード感と実効性重視の観点から、敢えて行政と絡まず、ルート探しやガイド等、地元の方に協力してもらった上、私的な支援として活動したのだが、災害現場で見聞したことによって、椎葉村の村長以下、役場職員、地元ガイド、和牛組合長及び獣医さんの復興への必死の思いはとても強く感じた。そして私個人としても、この活動を行ったことで、もう一つ考えさせられたことがある。それは、私の職業である「刑務官」の存在意義だ。刑務官という仕事は、テレビや映画で輝く主人公として描かれる警察や消防を表の仕事とするならば、スポットが当たることが極めて少なく一般的にあまり認知されていない裏の仕事と言えるかもしれない。感謝の言葉より圧倒的に恨み節や罵声を投げかけられる事のほうが多く、自分の存在意義や職業に対する不信感を感じることは多々あった。しかし、今回のように心から感謝してもらったことで、刑務官にもこれだけの活動が行え、社会に貢献できることを実感することができ、刑務官としての職業を誇りに感じることができた。我々刑務官の使命は、受刑者の収容を確保し、改善更生及び円滑な社会復帰を図ることが主となるが、その受刑者が帰っていく社会を守ることは当然のことであり、その社会を守る一角となることで刑務所を理解してもらい、受刑者の改善更生等に理解と協力を得たいと思う。

今回の活動を通じ被災地では即戦力として評価していただいたことが励みになり、刑務官がそれだけのポテンシャルを持っていることを頼もしく思い、助けを求める人たちのために献身的に動けるける仲間を誇らしく思い、日々の暮らしの中で忙殺されがちな大切の理念を再び思い起こす機会となった。今後、本事案をモデルとし、こうした活動を広め、地域社会との共生により大規模災害にも一丸となって立ち向かえるようなネットワークができるよう期待する。

私たちに感謝の言葉を掛けて下さった椎葉村の方に伝えたい。私たちのほうこそ「ありがとう。」